2012/11/07(水)「研究」を一般人に伝える技術

科学報道に大切なこと http://d.hatena.ne.jp/horikawad/20121105/1352067625

を読んだ。プロフィールによればこのエントリの著者は研究者だとかで、なるほど研究者視点、あるいは技術者視点としては良いことを言っているとは思うが、それでも「この人全然分ってないな」の感は拭えない。

が、人の論評をうじうじ批判してるだけはつまらないので、元ネタの立命館大 スポーツ健康科学部の吉岡伸輔助教の筋力余裕度計を、科学技術に興味の無い一般人にどう伝えていけば良いか、その方針を検討してみたい。

一般の人が「研究」に対して示す、最もシンプルな興味の向け方は「それ、何の役に立つの?」という実応用についてだ。技術応用が想定されている研究ならば、その視点で研究成果をとりあげるのが最も伝えやすい。

研究を「技術応用」の方向から記述することについて、実はその専門分野がある。特許だ。だから、研究成果についてどのような特許がとれるかという方向性で理解を進めると、文章化の時に既に頭の中で整理された状態になっている。もちろん特許願書を書くのではないから、「請求の範囲」の枠組みに押し込めようとする必要はない。

立命館大学は、産学連携や研究の産業応用について熱心で、その専任スタッフも充実してる。だから、筋力余裕度計の話も、「立命館大、しゃがみ姿勢から立つだけで「筋力余裕度」を測れる測定器を開発」の記事( http://news.mynavi.jp/news/2012/08/07/131/index.html )を見る限り、産学連携部門のスタッフの助言からか、あるいは応用を常に考える学風として根付いているからか、技術応用を念頭に置いた方向にある程度話が整理されて説明された形跡が見て取れる。この「整理されたところ」を骨格として捉えればよい。

この研究成果の話がなされた時に、先生がどんなに専門分野について難しいことをとうとうと喋って脱線していたとしても、話の骨格さえはずしていなければ、何ら難しいところはないはずだ。

重要な点は2点。

1.制限少なく、正確な筋能力を測れること。
「制限少なく」とは、被測定者の能力や状態によらず、被測定者に傷や大きな負荷を与えることなく、短い測定時間で、小さくシンプルで耐久性のある安価なデバイスで測れるということ。
「筋能力」とは、測定した時に筋肉が出力する「力の大きさ」ではなく、筋肉がどんな力を出す「能力があるか」のこと。

2.筋能力の評価指標として、利便性の高い「筋力余裕度」を採用したこと
能力の評価方法には色々選択肢が考えられ、例えば「力の単位」を持つ絶対値を使う方法もあれば、年齢、性別別の筋力分布に対する平均値や偏差値などを使う方法もありうる。
しかし、この研究成果では、介護の要/不要の境目になる筋能力を100%として、介護が必要になるまでに「どれだけ余裕のある筋能力か」という指標を用いている。
筋能力を正確に測りたいニーズとして、「要介護状態の切迫度を知りたい」というものが最も大きいだろうという判断があったのだろう。だから応用の方向をそこに見定めて「筋力余裕度」という指標を採り、測定計の名前にまでそれを採用して応用可能性の高さをアピールしている。

この2点さえ外さなければ、研究者側から見て最も伝えたいアピールポイント部分を捉え、読者側から最も興味持てるような表現で伝えることができるはずだ。

「(難しい)研究」を、一般人に「わかりやすく」伝える,科学報道に大事なこととは、こういう作業ではないだろうか。

2012/04/25(水)妄想近未来『電力』ニュース

太陽光発電.jpg

【妄想近未来『電力』ニュース】

昨日の昼頃起こりました一般家屋火災の続報が入って参りました。まず、消防の調べによると、昨夜までの発表では火災の原因は漏電ということでしたが、今日になって新たな事実が判明しました。

当初の現場検証では、太陽光発電の売電用のメーター付近が最もよく燃えていることから、太陽光発電パワーコンディショナーなどからの漏電が疑われていました。しかし、詳しい調べでは屋根上に設置されていたのは、太陽電池モジュールの模型で、実際は黒く着色されたプラッチック板であることが明らかとなりました。

実際には太陽光で発電は行われておらず、密かに一般電力線から売電用メーターへ電力が引きこまれており、電力会社からの安い電力を取り入れ、太陽光発電した電力として高額で売電されていた実態が明らかになりました。

警察の調べによりますと、この家屋の住人達は、太陽電池パネルが偽物で、一般電力線から密かに電力を取り込まれていたことに知らなかったと主張しているとのことで、不当に「太陽発電電力の売電」で利益を得たことについて否認しているとのころです。住人達はまた、「太陽電池システムを購入した当時は、本物の太陽電池モジュールが設置されていた」と主張しているとです。

そのことから、警察では、太陽電池システム納入業者が、一度収めた太陽電池モジュールを密かに偽物のプラスチック板にすり替え、太陽電池モジュールを高額で転売していたものと見ています。この家屋にシステムを納入した業者は既に解散後で、当時の経営者や工事担当者とは連絡がつかないとのことで、警察では計画的な詐欺事件の疑いもあるとみて捜査を進めています。
同じ「電力」を、「どうやって発電したか」で違う価格付けをするというのは極めてナンセンス。電力としては発電方式に関わらず同じ価格で買取るべきだ。

一方で「安全性」の違いの考慮については、保険加入を義務付けるなどして均衡を図るなどの方法が考えられる。
7月に始まる太陽光など再生可能エネルギーの全量買い取り制度の詳細を議論していた経済産業省の「調達価格等算定委員会」(委員長=植田和弘京都大学教授)は25日に開いた会合で、電力会社による電気の買い取り価格案を議論した。最終的な結論は持ち越したが、植田委員長が会合終了後に記者会見して委員長案を公表。太陽光発電は1キロワット時あたり税込みで42円(出力10キロワット以上)。風力は同23.1円(出力20キロワット以上)とした。

<略>

委員長案では、地熱発電は1キロワット時あたり税込みで27.3円(出力1.5万キロワット以上)、中小水力は同25.2円(出力1000キロワット以上、3万キロワット未満)。バイオマス(生物資源)は種類別に定め、リサイクル木材の場合で同13.65円とした。

 買い取り期間は地熱発電を15年、それ以外は20年にした。住宅用の太陽光発電は全量買い取り方式ではなく、余った分だけを買い取る現行の「余剰電力買い取り制度」を維持する。
参照:太陽光42円・風力23.1円 再生エネ買い取り価格案 2012/4/25 12:52

2012/03/13(火)お気軽に嘘報道

時事通信:受刑者のDNA型検出されず=検察独自の追加鑑定で-東電OL殺害

東京高検が独自に行っていた27点の物証のDNA型鑑定の結果、ゴビンダ・プラサド・マイナリ受刑者(45)や、別人の「第三者」のものと特定できるDNA型は、いずれも検出されなかったことが12日、関係者への取材で分かった。同日、東京高裁と弁護団に鑑定結果が開示された。
共同通信:受刑者のDNA型検出か 東電社員殺害の追加鑑定

東京高検が物証27点を独自にDNA鑑定した結果、被害女性の手に付着していた微物から受刑者と一致するとみられるDNA型が検出されたことが12日、検察関係者への取材で分かった。
 関係者によると、27点は女性の手や着衣の微物など。検察関係者は「事件当日に、受刑者と被害者が接触した可能性を強めるもの」と説明。今後、あらためて有罪は揺るがないと主張する
時事と共同のどちらかが「嘘」を報道してるわけだが、嘘が判明しても、メディアも検察も誰かのクビがとぶわけでもない。ツイッターのRTやフェイスブックの「笑ったらシェア」と何ら変わらない無責任さで垂れ流してると言える。


追記
産経:東電OL殺害、受刑者DNA型と矛盾せず 高検が独自鑑定開示

東京高検は12日、独自に進めていた物証27点の追加鑑定の中間結果を弁護側に開示した。関係者によると、被害者の手の付着物から、~受刑者=無期懲役が確定=のDNA型と矛盾しない結果が検出されたという。

 これまでの鑑定で、~受刑者の着衣などを除き受刑者と断定できるDNA型は検出されていない。今回の結果は検察側に有利となる可能性があり、高検は慎重に分析するとみられる
役人言語による玉虫色の表現だが、良識あるまっとうな日本語に訳せば「受刑者のDNA型はまだ検出されてない」になる。